便秘タイプ別・上手な下剤の使い方|排便ケアを極める(3)
下剤の投与は看護現場で日常的に行われますが、排便コントロールが難しいケースもあります。
そこで、便がどこに停滞しているかでアプローチを考えるシンプルな方法を紹介します。
執筆:佐々木みのり
1.便秘タイプ別アプローチとは?
便秘は、便が溜まっているのが
●おなか(腸)
●出口(直腸や肛門)
●おなかと出口の両方
のどこなのかかによって治療が違ってきます。
便秘タイプ別アプローチをフローチャートにしました。
「おなか(腸)」の便秘には経口下剤を使用します。
どの種類の経口下剤も「おなか(腸)」に作用し、「出口(直腸や肛門)」には直接効かないため、直腸や肛門に便がたまっていると考えられる場合は、まず新レシカルボン®坐剤で排便を促してみてください。
それでも排泄できない場合、グリセリン浣腸を検討しましょう。
2.便秘のタイプそれぞれの特徴は?
おなかの便秘
腸に便が停滞している「おなかの便秘」には、代表的な便秘として「けいれん性便秘」と「弛緩性便秘」があります。
【けいれん性便秘】
けいれん性便秘は、大腸の蠕動運動が過剰でけいれんし、便が詰まりやすくなって起こるものです。ストレス性の便秘で、「過敏性腸症候群便秘型」を併発している場合もあります。
緊張やストレスを感じるとお腹が痛くなり、排便すれば腹痛が収まることが多く、トイレに行けない状況で症状が出やすいのが特徴です。
緊張しやすい性格やストレス環境下にある学生や社会人に多く、男性にも女性にもみられます。
ウサギの糞のようなコロコロ便で、量が少なく、排便後もお腹の張りが残ったり、下痢と便秘を繰り返したりします。
【弛緩性便秘】
弛緩性便秘は、腸の蠕動運動が弱く、便の製造と運搬がうまくいかないために起こるもので、日本人に最も多い便秘です。
一般的に「便秘」というとこれを指し、高齢者に多くみられます。
けいれん性便秘と違い、ひどい腹痛は少なく、お腹の張りが主な症状です。腸内で便が停滞するため、腸内環境が悪化し、肌荒れや体調不良なども併発することがあります。
出口の便秘
直腸や肛門に便が停滞する「出口の便秘」は、ここでは「出残り便秘」と、それが進行した「鈍感便秘」という筆者の病院の考え方を紹介します。
性別関係なく、あらゆる年齢層でみられます。
【出残り便秘】
出残り便秘は、便意を我慢する習慣や加齢などによる便排出力の低下により完全に排泄できず、便が直腸・肛門内に残ってしまう便秘です。
毎日排便があるケースが多く、そのため本人に便秘の意識はゼロ。しかも、初期のころは残便感があっても、慣れてくると残便感は消失してしまいます。
【鈍感便秘】
出残り便秘が進行すると、肛門に便があるのが当たり前になり、便を感知するセンサーが鈍ってしまいます。
そのため、通常なら1日分の便が溜まれば便意が起こるはずですが、2日分、3日分と雪だるま式に直腸・肛門内に便が溜まり、数日に1回の排便ペースとなります。
おなか+出口の便秘
大腸にも便が停滞し、なかなか肛門まで下りてこない上に、下りてきた便も完全に排泄できずに残ってしまう便秘です。
毎日排便があっても、少量しか便が出ない、排便後もお腹の張りが続くといった症状があることが多くあります。
3.下剤や便秘薬はどう選ぶ?
よく処方される下剤や便秘薬の効果や特徴、副作用や注意点を一覧にしました。
最近、盛んに処方されている新薬のグーフィス®やリンゼス®も加えています。
【おなかの便秘の治療】
患者さんの症状に合わせて経口下剤を選択 ●けいれん性便秘:膨張性下剤や芍薬入りの漢方薬を優先 ●弛緩性便秘:アントラキノン系以外の経口下剤を優先 |
けいれん性便秘は、過敏性腸症候群便秘型を併発していてもしていなくても、まずは効果が穏やかで習慣性がほとんどない膨張性下剤や芍薬入りの漢方薬を試します。
コーラック®やスルーラック®などの市販薬やプルゼニド®やアローゼン®などのアントラキノン系下剤で腹痛や下痢を引き起こすことがあるため、慎重に投与します。
弛緩性便秘は、習慣性・依存性が生じやすいアントラキノン系下剤を避け、まずはそれ以外の経口下剤を使用します。
あらゆる経口下剤を投薬しても効果が得られなければ、最終的にアントラキノン系下剤を検討します。
【出口の便秘の治療】
●新レシカルボン®坐剤が第一選択。それでも解消しなければ、グリセリン浣腸を検討 |
新レシカルボン®坐剤は、炭酸ガスを固めただけの発泡剤で下剤成分は含まれていません。そのため、依存性・習慣性がなく、高齢者や妊婦にも使いやすい便秘薬です。
それでも解消しなければ、グリセリン浣腸の使用を検討します。グリセリン浣腸は、直腸穿孔を起こさないよう、ノズルの挿入の深さ(安全のため、筆者は5cmを推奨)や角度、体位に注意して行います。(詳しくはグリセリン浣腸の記事)
【おなか+出口の便秘の治療】
●経口下剤と新レシカルボン®坐剤を併用 |
経口下剤は便を出口まで運ぶ役割を、新レシカルボン坐剤は出口に送り届けられた便を排出する役割を担います。おなか+出口の便秘にはその両方からのアプローチが必要です。
【「ダイオウ」を成分に含む漢方薬には注意!】
「ダイオウ」が成分に入っている漢方薬は、アントラキノン系下剤の一種で、常用すると腸が黒くなって動きが鈍くなる「大腸メラノーシス」になるので要注意です。
下剤以外の薬にも含まれていることがあるため、軟便や下痢がある場合は、ダイオウを含む薬が処方されていないか確認してみましょう。
服用していることがわかったら、医師に相談して下剤の変更を検討します。
【ダイオウを成分に含む漢方薬の例】
4g含有:大黄甘草湯/麻子仁丸、3g含有:桃核承気湯/通導散/三黄瀉心湯、2g含有:大黄牡丹皮湯/潤腸湯/調胃承気湯/大承気湯/桂枝加芍薬大黄湯、1.5g含有:防風通聖散、1g含有:大柴胡湯/治打撲一方/茵ちん蒿湯、0.5g含有:乙字湯/治頭瘡一方
4.便秘治療前に確認すべきリスク
便秘治療をする前に、下記のリスクがないか確認しておきましょう。
【腎機能低下や心不全がある】
酸化マグネシウムの投与には注意する必要があります。高マグネシウム血症で脱水や徐脈を来すことがあるからです。
【心疾患や高血圧症、脳血管障害がある】
浣腸は避けた方がよいでしょう。血圧上昇により脳出血を起こすリスクや、迷走神経反射により心停止が生じることもあるためです。
【器質的な大腸狭窄がある】
大腸癌・大腸ポリープ・クローン病・虚血性大腸炎などによる大腸狭窄がある場合、原因疾患の治療が優先されます。ただし、2年以内に大腸内視鏡検査を受けて異常がなければ下剤の投与や浣腸などを行ってもOKです。
5.下剤投与後の観察ポイント
下剤投与後の観察ポイントを紹介します。
【便の性状】
便の性状で下剤が効いているか確認します。
歯磨き粉よりも硬めで、しっかりとした形のある便で、便器の水が濁らないのが理想。ブリストルスケール4(普通便)の状態を目指して下剤の量を調節します。
【便の回数】
1日1回が理想ですが、1日3回までなら許容範囲。少食やダイエット中の患者さんで食事摂取量が少ない場合は、2日に1回の排便でもOKです。
【便の量】
1日100〜200g。自分の足の親指くらいの太さの便が、手のひらを広げて親指から小指までの長さがあるくらいの量なら十分。食べた食事量、摂取水分量、睡眠、運動によって日々作られる便は違うので、神経質になる必要はありません。
【副作用の症状の有無】
腹痛、下痢、腹部膨満、頻回の排便などがある場合、薬の量を減らしたり変更したりします。嘔気、嘔吐、腹部の違和感、胃痛などがあれば、薬を変更した方がよいでしょう。
【肛門周囲の皮膚状態】
肛門周囲に便が付着していれば、出残り便秘の可能性大!
かゆみなどの症状があれば便が原因であることが多いため、出口の便秘を疑います。
また、便がスッキリ出ずに残ると紙に便が付くため、温水洗浄の使いすぎを招き、さまざまな皮膚トラブル(赤みや白っぽさ、皮膚が薄いまたや苔癬化して硬い、シワの盛り上がりなど)が起こることがあるので、注意しましょう。
6.下剤でありがちなトラブル
下剤でよくあるトラブルとその対策を、幾つか紹介します。
下剤が効かない!
下剤を服用すれば翌日必ず排便があったのに、長期使用でだんだん効果が薄れ、最大量服用しても便が出ない・・・という場合、依存性、習慣性が生じている可能性が高いです。
特に、アントラキノン系下剤は常用すると大腸メラノーシスになり、神経細胞が変性し減ってしまうため、自分で動かない土管のような腸になってしまいます。
突然中止すると全く便が出なくなる危険もありますので、少しずつ減量し、ピコスルファートナトリウムなどのアントラキノン系下剤以外の下剤に切り替えていくしかありません。
下痢が止まらない!
下剤を飲んだ翌日、溜まった便が出ても、何度も何度もお腹が痛くなってトイレから離れられない・・・という場合、服用量の多すぎや下剤が合っていない可能性があります。
まずは服用量を減らし、それでも下痢が止まらなければ服用を中止し様子をみましょう。
また、出口の便秘に対して下剤を服用している可能性も考えられます。指診で肛門・直腸付近に便があるのを確認できる場合、新レシカルボン®坐剤の使用を検討します。
便失禁してしまった!
酸化マグネシウムの過剰摂取でよくみられます。腹痛を伴わないため、異常に気づかないことも要因の一つです。
軟便がダラダラと何度も出る、気付かないうちに肛門から水様便が出ていたというケースが多く、服用量を減らす必要があります。
気持ち悪くなった!
アミティーザ®は、吐き気や嘔吐の副作用があることが知られ、特に若い女性に多く見られます。
服用時間を食中または食直後にすると、症状が軽減または消失することがあります。服用タイミングを変えても吐き気や嘔吐がおさまらない場合は、服用を中止し、別の下剤に切り替えましょう。
併用禁忌薬を飲んでいるのを忘れていた!
副作用が少ないことから、酸化マグネシウムはよく使用されますが、意外と併用注意薬が多いため注意が必要です。
下記の薬を服用している場合、酸化マグネシウムを服用してしまうと、これらの薬の効果を減弱させるなどの問題が発生します。
【酸化マグネシウムの併用注意薬】
テトラサイクリン系抗菌薬/ニューキノロン系抗菌薬/ビスホスホネート、セレコキシブ、ロスバスタチン、ラベプラゾール、ガバペンチン、ポリカルボフィルカルシウム、高カリウム血症改善イオン交換樹脂
また、薬だけでなく、サプリメントとして活性型ビタミンD3を服用している患者さんも、高マグネシウム血症を起こす可能性があるため、要注意です。
持参薬の確認などで、患者さんが酸化マグネシウムの併用注意薬を服用していることに気づいた場合は、医師に相談しましょう。
7.まとめ
下剤は「便を出す」のではなく、「便を出口まで送り届ける」薬です。
便秘の患者さんに遭遇したら、どこに便が溜まっているのか考え、直腸指診をしてみましょう。腸に問題がない「出口の便秘」であれば、下剤を投与すると下痢や腹痛、頻回の排便を生じる原因になりますので、新レシカルボン®坐剤やグリセリン浣腸を検討します。
特に、漫然と下剤を常用している患者さんは、一度、本当に下剤が必要なのか検討してみましょう。
参考文献
1)佐々木みのり.知っているようで知らない便秘とオシリの話-教科書にも書いてない肛門科医が診ている便秘-.日本臨床内科医会会誌.32(5),2018.
佐々木 みのり ささき・みのり
大阪肛門科診療所 副院長。
1994年大阪医科大学卒。大阪大学医学部皮膚科学教室入局。以後、大阪大学医学部付属病院、大手前病院、東京女子医科大学などで皮膚科医として4年間勤務。1998年皮膚科医から肛門科医に転身、大腸肛門科診療所に勤務し、現在に至る。日本大腸肛門病学会認定大腸肛門病専門医、日本大腸肛門病学会認定大腸肛門病指導医(ⅡB領域=肛門科領域)。
編集/看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo)
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